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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)3659号 判決

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理由

判決要旨

原告は、被告会社大阪支社長であつた喜多一重が振出した本件手形は同人が被告会社のためにこれを代理して振出したものであると主張するのであるが、甲第一号証によると、本件手形面の振出人欄には被告会社大阪支社の所在地名と同支社名を肩書として附記し、喜多一重の署名とその下に喜多名義の印顆の押捺が為されているものであつて、支社長その他代理資格を表示する文言の記載は何もなく、又被告会社印はもとより支社長等の職印を使用した跡も見られない。然らば右外観自体よりして果して原告主張の如く本件手形は訴外喜多が被告会社を代理して振出したものと断ずべきや洵に疑義なしとしないのであり、むしろ右喜多が同人自身のため振出したものと認め得られないではない。けだし原告も主張する如く法人の代理資格の表示方法には特別の方式があるわけでなく、苟くも手形面の記載自体からみて代理人が法人のため手形行為を為すものなることを認識し得る程度の表示があれば足るものと解すべきであるから、本件手形が被告会社のため振出されたものと認め得るためには、被告会社名の外に少なくとも支社長等喜多の被告会社における職名の附記か或は被告会社印又は喜多の職印の押捺か、そのいずれかの存することを要するものと解するを相当とする。従つてそのいずれをも欠くにおいては、たとえ被告会社名の記載があつてもこれのみをもつては未だ被告会社のためにする意思をもつて手形行為が為されたものと認むるに足りないものといわざるを得ないからである。このことは下記認定の諸事実からもこれを窺知せられる(以下手形外の事実関係をも認定して被告の振出人としての責任を否定した。)。

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